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合理的に“狂う”。ブランドアクションという戦略的非常識


企業や人の行動を見て、「なぜ、あんな思い切った挑戦ができるのだろう?」と感じたことはありませんか?

私自身、何度もそう思ったことがあります。

「普通じゃない」
「自分にはあんなことできない」
「あそこまでリスクは取れない」

思い切った行動に触れるたび、そんな風に感じてきました。


もちろん今でも、驚かされるような行動を見ることはあります。
ただ、以前と違うのは、「なぜそのような行動が可能になるのか」を、少し冷静に考えられるようになったことです。

そしてありがたいことに、最近では私自身の行動に対して「よくそんな挑戦ができるね」と言ってもらうことも増えてきました。

おそらく、20代中盤ごろからそのように見られるようになった気がします。


とはいえ、私は自分で自分を“挑戦的な人間”だと感じたことはあまりありません。
周囲にとってはそう映るようです。

この差はどこから生まれるのでしょうか。


端的に言えば、自分や会社の価値観・戦略に沿って、納得できる行動を選んでいるからだと思います。

ブランディングの専門用語で言えば、「ブランドアクション」を日々積み重ねている状態です。

私はどちらかというと慎重な性格です。
石橋を何度も叩いてから渡るタイプで、無謀な博打は打ちません。
だからこそ、合理的な判断のもとでしか挑戦を選ばない。


ただし、その合理性はあくまで「自分たちにとっての合理性」です。

他人の目線や一般的な基準に左右されることなく、自分たちの文脈で行動を選ぶこと。

これこそが「ブランドアクション」であり、ブランドを強くしていくために欠かせない行為だと思っています。

なぜ「一見、狂っているように見える行動」がブランドを強くするのか

ブランドとは、競合との違いを明確にし、顧客の記憶に“らしさ”として残る存在のことです。

つまり、他と似たようなことをしていては差別化にはなりません。

むしろ、「なんだこれは」と思われるような意外性こそ、人の記憶に強く焼き付く可能性を秘めています。


たとえばDysonが羽根のない扇風機を初めて市場に出したとき、多くの人が驚いたはずです。その驚きこそが、「Dyson=革新」というブランドイメージを確立する力になりました。

突飛に見える行動でも、ブランドの核と整合していれば、それは単なる奇抜さではなく、戦略的資産になります。


人は予想外のものに目を奪われます。そして、それが繰り返されれば「そういう会社なんだ」という認識が定着していきます。

ブランド構築において重要なのは、注意を獲得し、それを一貫した文脈で再生産すること。


つまり、「狂っているように見える行動」こそ、競争環境の中でブランドを際立たせる有効な手段なのです。

むしろ、他社の“常識”に乗っからないことが、論理的な選択なんです!

ただ奇抜なだけでは、まったく意味がない

ブランドアクションの本質は「単に非常識に見えること」ではありません。

目的に照らして合理的であるかどうか。
ここを見誤ると、奇抜なだけのノイズで終わります。


多くの企業が、“変わったことをすれば注目される”という安易な思い込みで、戦略性のない施策を打ち出します。

SNSでバズることをゴールにして、ブランドと無関係な話題づくりに走る。
確かに一時的なPVや話題性は獲得できるかもしれませんが、それがブランド価値を高める文脈に乗っていなければ、戦術としては失敗です。


ブランディングやマーケティングは、限られた資源で最大の成果を引き出す戦略行為です。

つまり、戦術である、商品開発、キャンペーン企画、各種プロモーション、接客サービスなど、全てのアクションには「なぜこれをやるのか」という目的合理性が求められる。


挑戦が「狂って見える」ほどの強度を持つのは構いません。

ただし、その挑戦がブランドのコンセプトに接続し、競合との差異化につながり、最終的に顧客の選択理由をつくるものでなければ意味がない。

ここを外すと、アクションは一時的な話題性のみで終わるか、単なるギャンブルに変わってしまいます。

ブランドアクションが本当に価値を持つのは、「この一手が、ブランドを一歩強くする」と論理的に説明できる時です。


▼コンセプトについては以前記事にしましたので詳しくは以下の記事をご確認ください。
【コンセプトの価値とは何か】一貫性も、共感も、選ばれる理由も、すべてはコンセプトから始まる。

ブランドアクションに必要な大事な視点

ブランドアクションを考えるうえで、大前提として「自社の戦略やコンセプトに沿っているか」は最重要の土台です。

そのうえで、実行段階で意識していただきたい視点が大きく二つあります。

それが、以下の二つです。

  • カテゴリー視点
  • 経済合理性 vs ブランド合理性の視点

それぞれ解説していきます。

消費者目線のカテゴリー視点

ブランドアクションを起こし、成果につなげるには、ポジショニング分析と、ブランドコンセプトの深い理解なしにはまず不可能です。


例としてAppleは、スマートフォンの処理速度やメモリ容量などの「機能的なスペック」よりも、それを使うことで得られる「生活の心地よさ」や「直感的な操作感」など、体験価値に重きを置いています。

製品そのものの性能を声高にアピールするのではなく、それを持つことでどんな世界がひらけるか……
そこにフォーカスしているのです。

それによってIT業界の中で、あきらかに異なるポジションを獲得しました。

ただし、ズラしすぎれば、それは「異物」として扱われてしまう。


繰り返しになりますが、ブランドアクションは、目立てばいいわけではありません。
大切なのは、同じカテゴリーの中で「何を選び、何を選ばないか」を意図的に設計すること。

共通の文脈を共有しているからこそ、“ズレ”が“意味のある違い”として機能するのです。


たとえば、「iPhone」というネーミングが好例です。
“Phone”という枠組みの中で、「まったく違う体験」を提示したからこそ、多くの人がそのズレを受け入れられた。

つまりブランドアクションとは「尖るべき理由を明確にし、カテゴリーを意識しながら絶妙にズラす意思決定と行動を繰り返す」ことに他なりません。

経済合理性 vs ブランド合理性

企業の意思決定は、基本的に経済合理性によって動きます。

利益が出るか、回収できるか、再現性があるか。

しかし、ブランドを強くするには、ときに“目先”の経済合理性を取らない選択をしなければなりません。


そこで大切なのが「ブランド合理性」という考え方です。

これは、本記事でこれまで書いてきた合理性とほぼ同義で、“らしさ”を貫くことで、長期的に選ばれ続ける状態をつくるための判断基準です。

短期的には非効率に見える一手でも、それが生活者の記憶に残り、ブランドとしての存在感を高めるものであれば、目先の経済合理性よりも優先すべき場面があります。


ブランドアクションとは、まさにこのブランド合理性を信じて打つ、未来志向の意思決定・行動です。

今すぐ数字に現れなくても、未来の売上をつくるための、必要な戦略的投資なんです。

スタッフの日々の何気ない行動・サービスにまで落とし込む必要がある。

ブランドアクションは、戦略や商品開発レベルの挑戦で終わってはいけません。

最終的には、現場で働くスタッフの何気ない行動やサービスにまで、具体的に落とし込まれてこそ、顧客に伝わります。


いくら大胆なブランディング・マーケティング戦略を掲げても、現場の行動がブランドとズレていれば、「らしさ」は顧客の記憶に残りません。

逆に、日々の小さな対応や気配りがブランドの核と整合していれば、それが信頼や好感を育む力になります。


スタッフ一人ひとりの行動に、企業の理念や戦略がにじみ出ていること。
その積み重ねこそが、ブランドの実体をつくっていきます。

全社員がブランドの意味を理解し、それぞれの立場でその価値を表現できるかどうか。
ここが、ブランドの持続力を左右します。

この視点が欠けたまま「狂って見える挑戦」だけを行っても、効果は限定的になってしまいます。

まとめ

思い切った挑戦に見える行動の背景には、自分や会社の価値観と戦略に沿った、合理的な意思決定があります。

たとえ小さな一手でも、戦略に沿って積み重ねていれば、いざというときも自信を持って踏み出せる


そしてブランドアクションとは、まだ誰もやっていない、自分たちらしい切り口で選んだ一手です。

周囲から「そんなのアリ?」と言われるような行動こそが、ブランドの個性を際立たせます。
ただし、それが戦略に裏打ちされていなければ、意味を持ちません。


大切なのは、他人の模倣ではなく、自分たちの文脈に即した選択であること。
ブランドの強さは、そうした選択の積み重ねによって育まれます。

最後にちょっと余談

ファンがつくブランドは、賛否両論を巻き起こすアクションを過去に行っていることが多い。

たとえば、NINEは広告表現でしばしば大胆な挑戦を行い、SHIROやSoup Stock Tokyoなどの国内ブランドも賛否を呼んだ例があります。

そして、多くの場合、真のファンはこうした目に見えるスタンスに熱狂する。


話題になりニュースになることが意図的であるかどうかは、企画者のみぞ知るところですが、少なくともそれぞれのブランドが持つキャラクターに沿ったアクションやコミュニケーションによって引き起こされた現象です。

そうしたニュースを見るたびに「なんてメッセージ性の強いアクションなんだろう。これぞブランディングだ」と、私はいつも勝手に心打たれています。


一方で、こうした行動を“ブランディング”の観点から捉えている人は、実はあまり多くないのでは。
そんな問いが浮かび、本記事を書くことにしました。

合理的に“狂う”こと。
それが、ブランドを育てる最短の道です。


※ちなみに、私のX(旧Twitter)アカウントでは、クリエイティブ、ブランディング現場での気づきを日々言語化しています。興味がある方はぜひご覧ください。
https://x.com/hagimaru31

この記事を書いた人

クリエイティブディレクター

萩原 雅貴

これまで100を超えるブランドのWEB・デザイン・クリエイティブディレクションを担当。固有の価値を伝える現場において、ビジョン・コンセプト開発、事業戦略設計、制作クリエイティブディレクション、執筆まで。ものづくりに情熱を注ぐ人や組織と手を組み、情報ではなく情緒でつなぐことを指針に活動。ブランドマネージャー1級

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