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ブランディングは、ロゴやデザイン、キャッチコピーを整えることだと思われがちですが、ブランドの印象を本当に左右するのは社員が普段使う言葉。
無意識に使われる一言が、ブランドの価値を削っていることがある。
特に、経営者が理想としている方向性と、現場の言葉にズレがあれば、その違和感はお客様にもしっかり伝わります。
だからこそ、まずは社内の言葉を見直すべき。
これが、ブランディングを進める上で最も重要な第一歩です。
この記事では、ブランドを傷つけかねない社内のNGワードと、その裏にある思考のクセを取り上げます。
ブランドオーナー、経営者が意識すべき言葉も含めて、確認してみてください。
NGワード1:「まあ、どこでもやってることだから」
この言葉が危険なのは、「自社の強み」や「独自性」を軽視するニュアンスを含んでいるからです。
問いたいのですが、「どこでもやってる」なら、なぜあなたの会社に頼む必要があるのでしょうか?
このフレーズが口癖になっていると、現場で独自性や差別化の視点が間違いなく育ちません。
社員が「うちならではの価値」を考える機会を、自ら手放していることにもなります。
仮に似たような取り組みをしている企業があっても、それをどう見せるか、どう伝えるかによってブランドは差別化できます。
「他社と同じことをしていても、うちのやり方はこうです」と言い換えるだけで、顧客との対話は前向きになります。
ブランドとは、“同じことをやっているかどうか”ではなく、“どう語られているか”で価値が決まる。
つまり、文脈でこそ価値が決まるんです。
だからこそ、この言葉は社内から排除したい表現のひとつです。
NGワード2:「この商品はちょっと高いかもしれないですね」
もし営業スタッフがお客様に対して「これはちょっと高いですよ」と伝えていたらかなりまずい状態だと思います。
その理由は、「価格が価値の唯一の指標になっている」からです。
「価値を提供する」という視点がなく、「お客様にとっては安さこそ正義」、もしくは「商品やサービスの価値に自信がない」という考えが、裏側にあるはずです。
価格競争に巻き込まれる理由は案外ここにあると思っています。
「安くすれば売れる」という思考は、短期的な売上を優先するあまり、ブランドの信頼性や長期的な価値を損なう原因になります。
特に中小企業の場合、価格競争に巻き込まれると、大手と同じ土俵で戦うことになり、本来の強みが埋もれてしまいます。
大前提、価値があるかどうかはお客様が決めること。
そして、本来、価格とは提供する価値に見合ったものであるべきです。
なので、「価格を下げる」ではなく、「この価格に納得してもらうために、どんな価値を感じてもらうか」を考えることの方が、はるかに建設的。
社員がこのフレーズを口にした時、「なぜ安くする必要があるのか」「今の価格はどのように決められているのか」を問い直す機会にしていく。
そうした積み重ねが、価格ではなく価値で選ばれるブランドを育てていきます。
NGワード3:「お客様がそう言うなら、しょうがない」
一見、お客様を大事にしているようにも聞こえるこの言葉ですが、実際には「考えることを放棄している」姿勢を表しています。
ブランドにとって重要なのは、「常に顧客に従うことではなく、顧客の意見を受け止めながらも自社の価値観や軸を持ち続けること」。
「しょうがない」と言ってしまった瞬間、そのブランドの哲学は間違いなく揺らぎます。
もちろん、お客様からのフィードバックは貴重です。
しかし、それをどう解釈し、どこまで応じるのかは企業側の判断です。
すべてを「言われたからやる」という受け身で対応していると、ブランドとしての芯がなくなり、誰にとっても「可もなく不可もない存在」に変わってしまいます。
「そのご意見は受け止めつつ、私たちとしてはこう考えています」と言えるかどうか。
対話を恐れず、自分たちの価値を言語化して伝えること。
これができる企業は、顧客との関係性も深まり、長く信頼されるブランドになっていきます。
NGワード4:「今さら変えても意味ない」
「今さら変えても意味がない」という発言には、過去の判断を正当化し、未来に背を向ける空気が含まれています。
変えることへの億劫さや、自分たちの過去への執着が、ブランドの柔軟性と進化を止めてしまう。
また、変えることを先送りする言葉は、いつしか「やらない理由」ばかりを正当化する習慣に変わる。多くの中小企業にとって、時代の変化に対応することは避けられません。
顧客の価値観が変わり、競合も変わる。なのに、変化しないまま既存のやり方を続けるのは、静かに市場からフェードアウトする選択と同じです。
「変えるのが遅すぎる」と言う前に、「今だからこそ変える意味がある」と捉え直すことが重要。
ブランドを育てる組織は、変えるべき時に動けるチームです。
NGワード5:「これは好みで決めていいと思います」
お客様や社内メンバーが判断を迷っているとき、「これは好みで決めていいと思います」と言ってしまうのは避けたい言葉。
たとえば住宅会社のプランナーが、お客様から「玄関ドアの色で迷っていて…」と相談されたとします。「好みで決めていいですよ」と言われると、少し頼りなく感じてしまうはずです。
一方で…
「玄関は建物の“顔”なので、外壁との色のバランスが大切です。たとえばこの色なら、外壁との色相差が適度で、全体にまとまりが出ます。さらに南西向きなので、午後の自然光が当たるときにこの色が柔らかく見え、印象が良くなります」
と説明されたら、納得感が違います。
専門家とは、こうした“選ぶ理由”を言語化できる人。
表面的な好みの裏には、本人も気づいていない潜在的な価値観や理想が隠れていることも多くあります。
そこを丁寧に読み解き、「だからこそこの選択が合っています」と提案できれば、相手の背中を自然と押すことができます。
自社のブランディングでも同じ。
「このロゴ、好みで選んだ」では説得力ない。「なぜこの色か」「なぜこのトーンか」。すべてに理由がある状態が、ブランドの一貫性と信頼をつくり、”語られるブランド”となります。
「好みで」と判断を委ねるのは、専門性を手放す行為。
選択に根拠を持ち、相手に軸を与えることが、信頼されるブランディングの第一歩です。
NGワード6:「こんな事、やってるところないからやめよう」
この言葉が口に出ると、差別化や独自化の意図が消えてしまいます。
他社がやっていることを繰り返すだけでは、ブランドの成長にはつながりません。
むしろ、同じことをすることで市場で埋もれ、競争の中で目立たなくなる。
目新しさや独自性を追求しなければ、顧客にとって魅力のないブランドになり、選ばれなくなります。
「こんなことやってるところないからやめておこう」と躊躇していると、結局は何も変わらず、競争優位性を得ることができません。
新しい取り組みやサービスを導入し、顧客の期待に応えることが、ブランドを強くする鍵。
他社がやらないことに挑戦することで、ブランドの価値は一層明確になり、市場での独自性を確立できます。
やらない理由を探すのではなく、やる理由を見つけて実行に移すことこそが、差別化や独自化を実現するために必要です。
言葉が変われば、ブランドも大きく変わる
「何気ない一言」が、ブランドの信頼を少しずつ削っていることがあります。
日々の会話、打ち合わせ中の返答、提案時の言い回し。
それらはすべて、ブランドの姿勢や方向性をにじませる重要な要素です。
実際、これまでの現場経験から感じるのは、今回紹介したNGワードは、案外リーダーが口にしてしまっているケースが多いということです。
言葉は空気のように伝染します。
上に立つ人の言葉遣いは、気づかぬうちに組織全体のスタンスに影響を与えます。
ブランドをもっと良くしていきたいと思ったとき、まずは日々の言葉づかいを振り返ってみることが、大事な一歩です。
言葉を変えれば、組織の意識も、ブランドの未来も変わります。
この記事を書いた人

クリエイティブディレクター
萩原 雅貴
これまで100を超えるブランドのWEB・デザイン・クリエイティブディレクションを担当。固有の価値を伝える現場において、ビジョン・コンセプト開発、事業戦略設計、制作クリエイティブディレクション、執筆まで。ものづくりに情熱を注ぐ人や組織と手を組み、情報ではなく情緒でつなぐことを指針に活動。ブランドマネージャー1級