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集客を強化するにあたって、「誰に、何を、どう伝えるか」を明確にすることはとても重要です。
たとえ会社の中に優れた技術やノウハウがあっても、「誰に、何を、どう伝えるか」がバラバラだったり、押し付けがましい売り方や届け方をしていたら、顧客から選ばれ続けることはできません。
そんなマーケティングの本質を、あの有名なイソップ童話『北風と太陽』から学ぶことができます。
『北風と太陽』を知らないという方もいるかもしれませんので、ここでざっくりとご紹介しておきます。
北風と太陽が「旅人のコートを脱がせる勝負」をします。
北風は力強く風を吹きつけて、無理やりコートを脱がそうとしますが、旅人は風に逆らってコートをさらに押さえつけてしまいます。
一方、太陽はあたたかな陽射しで空気をゆっくり変え、旅人の気持ちをほぐしていきます。
結果的に、旅人は自分の意志でコートを脱ぎ、太陽の勝利で決着がつきました。
この物語には、企業活動において見落とされがちな、けれどとても大切なヒントが詰まっています。
マーケティングの目的とは?
マーケティングとは、モノを売るための技術やテクニックだと思われがちです。
ですが、経営学者ピーター・ドラッカーは、マーケティングをもっと本質的なものとして捉えています。
彼の言葉を借りれば、マーケティングとは「販売を不要にすること」。
つまり、マーケティングがうまく機能していれば、強引な営業や過剰なセールスをしなくても、顧客のほうから自然と選んでもらえる状態をつくることができるという考え方です。
そのために大切なのは、自分たちが伝えたいことを押し付けるのではなく、相手の立場に立って考えること。
何に困っているのか、どんなものを求めているのか。それを丁寧に観察し、適切なかたちで届けていくことが、マーケティングの原点です。
ただ目立つ広告を打つ、ただSNSでフォロワーを増やす――
ということではなく、相手にとっての価値とは何かを見つけ出し、それをどう伝えるかを設計する。
そうやって顧客との接点一つひとつを丁寧に積み上げていくことで、「売らなくても選ばれる」状態が生まれます。
この考え方は、まさに『北風と太陽』における太陽のようなアプローチそのものです。
太陽的なアプローチが内発的動機を生む
マーケティングとは、ただ商品を売るための活動ではありません。
「買ってください」とお願いすることでも、「これがいいんです」と説得することでもない。
相手の中に眠る「これが欲しかった」「こうありたい」という気持ちを引き出す働きかけのことです。
ここで思い出したいのが、イソップ童話『北風と太陽』の太陽のふるまい。
太陽は無理にコートを脱がそうとはしませんでした。じんわりとあたたかさを届け、旅人自身が「脱ぎたい」と思う環境をつくった。
この姿勢こそ、今の時代におけるマーケティングのヒントになります。
人は、自分で納得したときにこそ動きます。
だからこそ、マーケティングの要点は「どうやって買わせるか」ではなく、「どうすれば自分ごととして気づいてもらえるか」にあります。
そして、押さえておきたいのが、「内発的動機」と「外発的動機」の違い。
値引きやキャンペーン、希少性をあおるといった手法は、一時的な外発的動機を生みますが、それが終われば購買理由も消えてしまう。
一方で、「これは自分にとって意味がある」と感じた体験は、内側からの動機となり、持続的な関係性につながっていきます。
無理に売り込むのではなく、「これはあなたのためのものですよ」と自然と伝わる仕掛け。
そのためには、相手の目線に立ち、どんな暮らしを望んでいるのか、どんな不満や迷いを抱えているのかに目を向けることが欠かせません。
マーケティングで大事なのは、売りつけることではなく“気づかせる”こと。
そして、その気づきが自分の中から生まれたものであればあるほど、行動は強く、持続的になります。
顧客インサイトに目を向ける
顧客インサイトとは、「お客様自身もまだ言葉にできていない、本当の欲求や動機」のことです。
商品やサービスをつくるとき、企業側の視点だけで「便利です」「お得です」と伝えても、なかなか伝わりません。
それは、お客様の表面的なニーズだけを見ているからです。
たとえば、「コーヒー豆が欲しい」と言う人が、本当に求めているのは豆ではないかもしれません。
その一杯で気持ちを切り替えたい。落ち着ける時間を持ちたい。そんな目的が背景にあることが多いのです。
「こういう気持ちで過ごしたい」「こういう体験がしたい」といった、言葉にしづらい感情に向き合うこと。そこに向けて商品やサービスを考えることが、共感や選ばれる理由につながっていきます。
その考え方の軸になるのが、顧客インサイトです。
つまり、顧客のインサイトに目を向けることで、無理に売り込まなくても自然と届く伝え方(=太陽的なアプローチ)が可能になるんです。
▼顧客インサイトについては、別の記事で詳しく紹介しています。興味のある方は、以下の記事もあわせて読んでみてください。
【顕在意識5%、無意識95%】マーケティングに必要なインサイトの見つけ方
【事例】珈琲豆のサブスクサービス好調の裏側
以前、ある珈琲豆販売会社のブランドマーケティングを担当した際、サブスクサービスの導入を検討しました。
一般的なサブスクサービスのイメージとしては、「毎月自宅にコーヒー豆が届く」ことで、手軽さやお得感を強調する方法が考えられます。
しかし、そのアプローチでは競合が多く、価格や量で勝負してしまうと差別化が難しくなります。
単にお得感を打ち出すだけでは、選ばれ続ける理由を作ることはできません。
・・・
そこで私たちは、提供する価値を一から再定義し直しました。
ヒントになったのは、サブスクを利用する人ほど「毎日複数杯のコーヒーを飲む」という事実です。
毎日飲むからこそ、今の味に少し飽きを感じている人もいるのでは?
もっと言うと、習慣や日常の中に小さな変化が欲しいのではないか?
という仮説を立て、インタビュー調査を重ねました。
そうして最終的に導き出されたコンセプトは、「毎月届く、毎月変わるコーヒーとの暮らし」。
このサービスの本質は、ただ豆を届けることではありません。
スタッフが選んだ“今月の一杯”との出会いを通して、日常の中に小さな変化と彩りを届けること。
その新しい価値が、コーヒー好きの“内発的な動機”を刺激し、「ちょっと試してみたい」「次はどんな豆が届くんだろう」というワクワク感につながっていきました。
また、上記のサービスと合わせて、初めての方限定のお試しセットも用意。
そのセット内容にも、定番品はもちろん、時期によって変わるおすすめの珈琲豆が含まれており、お試し価格で「新たな珈琲豆との出会い」をお楽しみいただけるようにしました。
こうして、気軽に味わいを確かめたい方に向けて、少しハードルを下げた商品を設けることで、サブスクサービスへの興味を促す流れをつくりました。
結果として、価格を軸にしたプロモーションを行わずとも、五感に敏感な暮らしを大切にする層からの申し込みが増加。ブランドの価値も深まりました。
これは、「北風と太陽」でいうところの、太陽的アプローチの実例と言えると思います。
相手を変えようとするのではなく、相手の中にある動機に目を向け、そこに価値を届けていく。
その繊細な設計が、しっかりと実を結びました。
北風さんから学ぶこともある。
ここまで“太陽的なアプローチ”の重要性を中心にお話してきましたが、「北風=強引なアプローチ」は本当にすべて悪なのでしょうか?
実は、北風的なやり方にも学ぶべき点があります。
たとえば、「必要性に気づいていない顧客に注意を促す」ときや、「急を要する課題に対して一歩を踏み出してもらう」場面では、ある程度の“強さ”が必要になることもあります。
何かを変えなければいけない。でも見て見ぬふりをしている。
そんな相手に対しては、時に冷たい風を吹かせて「今動かないと後悔するかもしれませんよ」というサインを送ることも必要です。
また、意思決定のきっかけとして「比較」や「価格訴求」が効く場面もあります。
これもある種の北風的手法。ただ、それは単なる煽りではなく、「相手のためを思って伝える姿勢」が前提にあるかどうかが鍵です。
押しつけや圧力ではなく、相手の行動を促す“きっかけ”として風を使う。
これが、学ぶべき“北風の使い方”です。
重要なのは、「太陽」と「北風」を状況によってどう使い分けるか。
相手の状態や関係性の深さによって、あたためるのか、背中を押すのか。その見極めができてこそ、本質的なマーケティングが機能します。
つまり、“優しさ”も“強さ”も、どちらかに偏るのではなく、両方を持ち合わせておくこと。
北風の力も、適切な文脈で使えば、相手の行動を前向きに後押しする大切な手段になり得るのです。
集客に必要なのは本能を刺激し「つい」を作ること
集客を強化するためには、顧客の本能を刺激し、「つい」手が伸びてしまう状況を作ることが非常に重要。
どんなに素晴らしい商品やサービスを提供していても、顧客が思わず興味を持ち、行動に移すような瞬間を生み出さなければ、結果には繋がらないからです。
- 顧客が誰なのか?
- 顧客は日々どんな行動しどんな感情を抱いているのか?
- 顧客に何を、どう伝えれば、”つい”を引き出せるのか?
「北風と太陽」はこれらの問いの重要性を超絶わかりやすく教えてくれる話。
そして、これらの問いに絶対的な正解はないので常に問い続けていかなければいけないと思います。
私たちの仕事においても「どう言うか、どう伝えるか」だけの支援ではやっぱり足りません。
その価値やメッセージが届くための土台。 つまり、「選びたくなる理由」そのものから設計することを大事にしています。
この記事を書いた人

クリエイティブディレクター
萩原 雅貴
これまで100を超えるブランドのWEB・デザイン・クリエイティブディレクションを担当。固有の価値を伝える現場において、ビジョン・コンセプト開発、事業戦略設計、制作クリエイティブディレクション、執筆まで。ものづくりに情熱を注ぐ人や組織と手を組み、情報ではなく情緒でつなぐことを指針に活動。ブランドマネージャー1級