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仕事柄、経営者の方や広報担当者の方とお話しする機会が多くあります。その中でよく話題になるのが、「発信しようと思えば発信できるのだけど、肝心の発信すべき内容がよくわからない」ということです。
この悩みは本当に多くの経営者や広報担当者が抱えており、特に現在、会社の中で広報を担当しているスタッフが1人か2人、もしくは他の業務と兼務している方がいる企業でよく聞かれます。
そして、そうした状況にある会社のSNSやブログを見ると、ほとんどが事例紹介になっていたり、お知らせアカウントになっていたり、会社の日常を切り取った内容だったりと、「とりあえず発信できるもの」を発信しているという状態になっています。
はっきり言います。
そのままだと、広報担当者を設けた意味が全くと言っていいほどありません!
今回の記事では、上記のような状況に置かれている方に向けた内容になっています。明日から実行できる内容もいくつかありますので、じっくり読んでいただけると嬉しいです。
広報とは何なのか?
一般的に広報(Public Relations)とは、「企業の情報を社内外へ発信することで、企業とステークホルダーの信頼関係を構築していくこと」です。
この中でポイントとなるのは、「ステークホルダー」と「信頼関係の構築」という点です。
「ステークホルダー」には、取引先や顧客、従業員(従業員の家族も含む)、金融機関などが当てはまります。そのため、かなり幅広い人々に向けて発信しなければならないと思う方も多いかもしれません。しかし、広報にも「戦略」の考え方を取り入れる必要があり、現状の課題に応じて、誰と信頼関係を築くのかをある程度絞っておくべきです。
実際に広報には、採用広報、サービス広報、インナー広報など、さまざまなスタイルがあるため、課題ごとに関係を強化すべき相手や活動内容を考える必要があります。
そしてもう一つのポイント、「信頼関係の構築」について。
その言葉の通り、広報の最大のミッションは「良好な関係性づくり」です。したがって、ただ接点を築いて会話を成立させれば良いというわけではありません。また、誰かと仲良しになれば良いというわけでもありません。
たとえば採用広報であれば、自社と求職者のそれぞれの目的が交差する点を見つけ、そこに向かっていくためのベクトルを合わせていくことも広報の仕事です。
このことからもわかるように、まず大前提として「広報担当者=発信屋さん」ではないことが理解できたと思います。
ちなみに個人的には、特に中小企業においては、広報担当者が発信屋さんになってしまうケースが多いですが、中小企業こそ、広報担当者を単なる発信屋さんとして捉えるのではなく、顧客も含めたステークホルダーと良好な関係性を築くための人材と位置づけるべきだと思っています。
そうでないと、いくら資源があっても足りません。
広報PR担当に必要なスキルとは?
ここからは、広報担当者が身につけるべきスキルについて書いていきたいと思います。
広報担当者は、社内の誰よりも情報をあらゆるところから収集し、それをターゲットに向けてアウトプットする必要があるため、まず大前提として「編集力」は必ず必要です。
この編集力とは、「客観的な情報を集めて、自分の中で咀嚼し、無駄な情報を省き、最終的に分かりやすく、魅力的にまとめあげる力」です。
この編集力があるだけで、かなり優秀な広報PRパーソンになれると思っています。
ただ、この編集力を磨いていく上で、ブランディングやマーケティングに対する理解が必須です。
実務的にブランディング戦略やマーケティング戦略を構築できるようになる必要はありませんが、この2つの戦略についての理解は不可欠だと思います。
ちなみに、以降は次の2点を前提に話を進めていきます。
- 広報課題は、商品サービス広報
- ブランディングやマーケティングに精通したスタッフが社内にいる。
押さえるべきブランディング・マーケティングの基本要素
ブランディングとは、単に「かっこいいロゴやキャッチコピーを作ること」ではありません。「企業や商品の愛される理由を基点に、一貫したイメージをステークホルダーと共有し、共感や応援を生むための戦略や活動。」です。
そして、マーケティングとは、「商品サービスの価値と行動変容のきっかけをつくり、市場、顧客を創造するための戦略や活動」です。
広報担当者がこのブランディングやマーケティングの基本を理解していないと、発信がただの情報提供にとどまりがちです。「キャンペーン情報」や「新商品のお知らせ」などは、一時的な関心を集めることはできても、企業の価値や信頼を積み上げることはできません。
広報活動を行う上で、最低限押さえておくべきブランディング・マーケティングの基本要素について解説します。
▼ちなみに以下の記事に、今後さらに重要になるブランディングの考え方について解説しています。
ご興味があれば読んでみてください。
未来のブランディングはどう在るべきなのか?歴史を紐解きながら考察してみた
01.企業やブランドの成り立ち、ビジョン
企業やブランドには、それぞれ創業の背景や成り立ちがあります。
「なぜこの事業が始まったのか?」「どのような想いで立ち上げられたのか?」「どこを目指しているのか?」「理想とする世界観は何なのか?」これらを理解することは、ブランドの本質を捉える上で非常に重要です。
例えば、ある食品メーカーが「創業者が家族の健康を考えて無添加食品を作り始めた」ことがブランドの原点だったとします。
広報担当者は、この成り立ちを知ることで、単に「無添加食品を販売している企業」という表面的な発信ではなく、「大切な人の健康を守り、共に歩む企業」というストーリーを発信できるようになります。
企業の成り立ちやビジョンは、コーポレートサイトやパンフレットに記載されていることが多いですが、たとえ記載されていたとしても、実際に創業者や経営陣へのヒアリングを通じて深掘りすることをお勧めします。
なぜなら、自分自身で質問を組み立て、直に回答に触れることで、その思想をより深く自分の中に落とし込むことができるからです。
02.ブランドエクイティ
ブランドエクイティとは、「企業やブランドが持つ市場での価値や、消費者・取引先の認知・評価のこと」を指します。
これを理解することで、現在のブランドの強み・弱みを把握し、どのような発信が必要なのかを判断できます。
例えば、あるアパレルブランドが「サステナブルな素材を使った製品」を強みにしているとします。
しかし、実際に市場では「デザイン性が高いブランド」と認識されている場合、このギャップを埋めるための広報施策が必要になります。
ブランドエクイティを把握するには、社内の認識だけでなく、社外の声も参考にすることが大切です。SNSでの評判、顧客アンケート、競合との比較など、さまざまなデータを活用し、現在の認知や評価を分析しましょう。
03.社会課題やトレンド
マーケティングにおいて「外部環境の理解」は非常に重要な要素です。これは広報担当者にとっても例外ではなく、社会の変化や業界のトレンドを把握しながら、自社の立ち位置を明確にすることが求められます。
例えば、近年では「サステナビリティ」や「DX(デジタルトランスフォーメーション)」といったキーワードが多くの業界で注目されています。もし自社がこれらのテーマに関わる事業を展開している場合、広報活動においてもその視点を取り入れ、「世の中の流れと自社の役割を結びつけた発信」をすることが重要です。
具体的には、以下のような点を整理すると良いと思います。
- 社会や業界でどのような変化が起きているか?
- その変化の中で、自社の果たすべき役割は何か?
- 自社にとって追い風になる変化、一方で脅威になる変化は何か?など…
このように社会の状況を俯瞰しながら自社の立ち位置を明確にすることで、ニーズに合わせた発信が可能になり、テレビや雑誌、WEBメディア等の外部メディア担当者の興味を引くことができます。
04.誰のどんな課題を解決するのか
「自社のサービスが、どのような人の、どのような課題を解決するのか?」についても深く理解することが大切です。
例えば、BtoB企業であれば「業務効率化に悩む企業担当者」をターゲットにしているかもしれませんし、BtoC企業なら「美容に関心のある20〜30代女性」が主な顧客層かもしれません。
整理すべきポイントとしては、以下のようなものが挙げられます。
- 自社のサービスや製品が解決する「具体的な課題」は何か?
- その課題を持っているのはどのような人か?(年齢・性別・職業・ライフスタイル・価値観・口癖など)
- 顧客が求めている本質的な価値は何か?(機能面だけでなく、心理的な価値も含める)
これらを正しく理解していれば、より共感を得られるメッセージを設計しやすくなりますし、発信する媒体も明確になります。
05.顧客の購買プロセス
「顧客がどのようなプロセスを経て商品やサービスを購入するのか?」を把握することも非常に重要です。このプロセスを「カスタマージャーニー」と呼びます。
一般的なカスタマージャーニーの流れは以下の通りです。
- 認知フェーズ(ブランドや商品を知る)
- 興味・関心フェーズ(情報を収集し、比較検討をする)
- 購買フェーズ(実際に購入する)
- 継続利用・ファン化フェーズ(満足し、リピートや推奨をする)
広報活動の目的が認知拡大であれば、メディア露出やSNSを活用した話題づくりが重要になりますし、既存顧客のロイヤルティ向上を狙うのであれば、ユーザーコミュニティの運営やストーリー性のあるブランディング的な施策が効果的です。
このように、広報担当者もブランディング・マーケティング視点を持ち、カスタマージャーニーを意識することで、発信するメッセージの精度を高めることができます。
明日から実践できる!広報担当者のアクションプラン
ここまで広報の役割やマーケティング視点の重要性について解説してきました。とはいえ、「結局、明日から何をすればいいの?」と感じる方も多いと思います。
そこで、すぐに実践できる広報担当者のアクションプランを解説します。
社内外の情報をキャッチする仕組みをつくる
広報担当者は 「社内の誰よりも情報を持っている存在」 であることが理想です。
そのために、まずは情報を集める仕組みを整える必要があります。以下は明日からできるアクションを箇条書きでまとめました。実際に私もクライアント企業の支援をする際にやっていることでもあるのでご参考ください。
- 経営者/各部門長と月1回の情報共有ミーティングを設定する(新規事業、採用状況、成功事例などのキャッチアップ)
- 社内チャットツール(Slack・Teamsなど)で「広報ネタ専用チャンネル」を作り、従業員が気軽に情報を投稿できる環境をつくる
- 各部署の動きを知るために、週1回、異なる部署のメンバーと雑談ベースの情報交換を行う
- 自社業界のニュースを毎朝チェックする(Googleアラートや業界専門メディアを活用)
- 競合企業の発信を定期的に分析する(公式SNS・プレスリリース・Webサイトの更新情報をウォッチ)
- X(旧Twitter)やInstagramで業界のインフルエンサーをフォローし、トレンドや話題をキャッチする
ブランドの戦略を整理し、広報PR課題と発信の軸を明確にする
先ほど、広報担当者にとって編集力が必須であると述べました。また、それに加えて、ブランディングやマーケティング戦略に対する理解も重要であることをお伝えしました。
自社の商品やサービスのブランディングやマーケティング戦略に対する理解があることで最も良い点は、「広報PRの指針(コンセプト)が明確になる」ということです。言い換えれば、広報活動において「誰に、何を伝えるか」が整理・編集しやすくなるということです。簡単に明日からできるアクションを箇条書きにします。
- 企業やブランドのビジョンについて、代表者にインタビューする。
- 現在、自社ブランドがどのように認知されているか、社内の担当者に確認する。また、自分自身でも周囲の方にヒアリングする(調査会社に依頼するのも一つの方法)。
- SNSでの評判、顧客アンケート、競合との比較などを整理する。
- 社会のトレンドや社会課題と自社ブランドの提供価値の接点(交わるポイント)を洗い出してみる。
- ターゲットが抱えている不満、不安、不便、ニーズを担当者にヒアリングする。
- ブランドコンセプト、ポジショニング、強みを担当者にヒアリングする。
- ターゲットとの接触ポイントや、その体験設計について担当者にヒアリングする。
- 外部のメディア担当者の興味を引けそうなネタをピックアップする。
- 上記を一つの用紙にまとめ、広報PR的に「誰に何を伝えるか」を経営者や営業・マーケティング担当者と議論する。
広報PRの指針に関しては、一人で構築しても問題ありませんが、この点は関係者と共通認識を持っておいた方が良いので、初めて構築する方はできるだけ関係者と共に構築することをおすすめします。
ちなみに、広報的な「誰か」とは、自社の商品サービスを届けたい相手が最終的なターゲットではありますが、広報担当者としては、ブランドの方向性に沿ったメディア担当者やオピニオンリーダー、インフルエンサーがターゲットになる場合もあります。
そうした広報的なターゲットに対して「何を」伝えることで好ましい行動を促すことができるのかを明確にするイメージです。
発信が継続される仕組みをつくる
広報活動は一度の発信で終わりではなく、継続的な発信が求められます。そのため、発信を続けるための仕組みを確立する必要があります。以下、そのアクション例を箇条書きにします。
- 広報コンセプトに沿った発信内容をリストアップし、社会のトレンドや社内の状況を考慮して優先順位をつける(プレスリリース等も含む)。
- 発信するテーマを月単位で決める(例:4月は「新年度×組織文化」、5月は「GW明け×働き方改革」)。
- 週ごとに何を投稿するか、ざっくり計画を立てておく。
- コンテンツ作成のためのライティングの型やデザインガイドラインを整備する。
- 撮影した写真や動画を「使える素材」として整理し、社内共有できるフォルダに保存する。
- 発信する媒体選定。また、テーマに合わせた各媒体への転載ルールも整理する。
まだまだやるべきことはありますが、最低でも上記について対策してから、いざ発信へ向かってください。そして、PDCAを高速で繰り返しながら、定期的に「誰に何を伝えるか」も見直すようにするとより精度が上がっていきます。
まとめ
広報担当者の役割は、単なる「発信屋さん」ではなく、 企業とステークホルダーの信頼関係を築き、その関係性を維持・発展させることです。
そのためには、ブランディングやマーケティングの視点を持ちながら、戦略的に広報活動を行うことが求められます。
今回の記事では、広報担当者が押さえるべき基礎知識と、明日から実践できるアクションプランについて解説しました。改めて重要なポイントを整理すると、次の3点が挙げられます。
- 広報は「発信」ではなく「関係性の構築・発展」が目的
- 企業のブランディングやマーケティングの戦略を理解し、 広報的視点で「誰に、どんな価値を伝えるのか」 を明確にする
- 情報収集→整理→発信のサイクルを仕組み化し、継続的に運用する
広報PRの力は、企業の成長を加速させる大きな武器になります。
適切な情報発信を行うことで、 採用・営業・社内のエンゲージメントなど、あらゆる面でポジティブな影響をもたらします。
「何を発信すればいいかわからない」と悩んでいた方も、今日から少しずつ行動に移してみてください。小さな発信の積み重ねが、やがて企業のブランド価値を大きく向上させるはずです。
この記事を書いた人

クリエイティブディレクター
萩原 雅貴
これまで100を超えるブランドのWEB・デザイン・クリエイティブディレクションを担当。固有の価値を伝える現場において、ビジョン・コンセプト開発、事業戦略設計、制作クリエイティブディレクション、執筆まで。ものづくりに情熱を注ぐ人や組織と手を組み、情報ではなく情緒でつなぐことを指針に活動。