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ネットを開いても街を歩いても「今だけ割引」「急がないと損をする」といった販促をよく見かけます。
一時的に売上をつくるには効果的かもしれません。
でも、それを続けていると「このブランドは安く売る会社」という印象だけが残り、じわじわと信頼が薄れていく。
そしてもう一つの問題は、「記憶に残る購買体験」が生まれにくいこと。
値引きで買ったものって、あとに記憶として残りづらいですよね?
「安かった」以外の理由がないから、次に選ぶ動機が育たないんです。
結果、「今すぐ買う理由」はつくれても、「また買いたい理由」や「他社よりも価格が高くても買いたい理由」はつくれない。
そうなると、余計に値引きは当たり前になり、かつ新規顧客の獲得に頼り続けるしかなくなってしまう。
このループから抜け出すには、短期的な施策だけに頼らず、少しずつ“長く選ばれる仕組み”を育てていくことが必要です。
そこで重要になるのが「ファンづくり」に目を向けたマーケティングを実践すること。
ファンは、売り込まなくても自然と選んでくれる人たち。
そのブランドを「いいな」と思い、誰かに薦めたくなる人たち。
そんな人がいるかどうかで、企業の成長や中長期を見据えた販売戦略の方向性はまるで変わります。
この記事では、この「ファン」という存在を改めて定義してみます。
また、なぜ今の時代のブランディングやマーケティングにおいて、ファンを基盤に推進していく視点が欠かせないのかについても整理していきます。
企業にとってのファンとは何か
「ファン」と聞くと、アイドルやアーティストを追いかけている人を思い浮かべる人が多いかもしれません。
ステージを見て歓声を上げるような、あの熱狂的な光景。
そうしたファンを想像すると、「自分たちの会社には関係ない」「ファンなんて遠い存在だ」と思ってしまいますよね。
でも、企業にとってのファンはもっと身近な存在です。
私たちが考えるファンの定義は、「企業・人・ブランドに対して、継続的にポジティブな感情的つながりを持つ人」。
ここでのポイントは“感情的なつながり”という部分です。
一度だけ商品を買った人ではなく、「あそこはなんか信頼できる」「なんとなく好きで選んでしまう」と感じている人たち。
たとえば、仕事帰りについ立ち寄りたくなるカフェや、毎回同じブランドの日用品を選んでしまうようなケース。
広告を見て即買うわけではなく、生活の中で“気づけば選んでいる”存在です。
その背景には、「共感できる」「信用できる」といった小さな感情の積み重ねがあります。
それこそがファンの状態です。
そして、これは特別なブランドや有名企業だけの話ではありません。
ファンは、どんな企業にも、どんな規模の組織にも生まれます。
日々の小さな接点の中で少しずつ育っていく関係性だからです。
顧客やリピーターとファンの違い
「顧客」「リピーター」「ファン」。
この3つは似ているようで、実はまったく違います。
まず顧客とは、商品やサービスを購入した人のこと。
買った理由は、価格、利便性、タイミングなど、さまざまですが、顧客の特徴としては、そのブランドに特別な思いがあるわけではない点です。
次にリピーター。
こちらは繰り返し購入している人を指します。
品質や使い勝手に満足しているからこそ再購入しているケースが多いですが、その行動の背景にあるのは「合理的な選択」であることがほとんど。
たとえば「近くて便利だから」「他より安いから」。
条件が変われば、あっさり離れてしまう可能性もあります。
そしてファン。
ファンは、ブランドや企業そのものに“ポジティブな感情的なつながり”を持つ人です。
「信頼できる」「応援したい」「誰かにすすめたい」と思っている。
そこには、価格や利便性だけでは測れない価値があります。
だからこそ、競合が現れても簡単には離れない。
むしろ、周りにその魅力を語りたくなる。
簡単に整理しましたが、この違いを正しく理解すること。
それが、これからのマーケティングを考える第一歩だと思っています。
ファンとコアファンの違い
私たちは、ファンの中にも二つの階層があると考えています。
それが「ファン」と「コアファン」。
似ているようで、この二つの違いを理解しているかどうかで、企業のマーケティングは大きく変わります。
ファンについては先ほども触れた通り、ブランドや企業にポジティブな感情を持ち、自然と選び続けてくれる人たち。
一方、コアファンはその中でも特に熱量が高い存在です。
新しい商品が出れば誰よりも早く試し、SNSで感想を発信したり、友人に薦めたりする。
ブランドが主催するイベントに参加し、企業の姿勢そのものを応援する人たち。
つまり「購入者」という枠を超えて、「応援者」「支持者」「体現者」として存在してくれている方々です。
ファンは安定した売上を支える存在。
コアファンはブランドの価値を一緒に支えてくれて、外へ広げ、成長を加速させてくれる存在。
どちらも欠かせませんが、特にコアファンの存在が強いブランドほど、競合との差が明確になります。
言い換えるなら、ファンは「選び続ける人」、コアファンは「選び続け、共創してくれる人」。
この違いを理解し、どちらも大切に関係を育てていくことが、これからのブランドに求められる姿勢です。

今の時代、企業にとってファンやコアファンに目を向けるべき理由
これまで多くの企業は「新規顧客の獲得」を成長の軸に据えてきました。
広告を打ち、キャンペーンを展開し、できるだけ多くの人に商品やサービスを知ってもらう。
確かにこの方法は過去には有効でした。
しかし今の日本の市場環境では、このやり方だけでは持続的な成長が難しくなっています。
背景には主に三つの要因があります。
- 人口減少
- 超成熟化市場
- 情報過多の時代
一つずつ解説していきたいと思います。
人口減少
言わずもがな、今の日本では少子高齢化が進み、市場の前提そのものが変わっています。
総務省の統計によれば、日本の総人口は2008年の1億2808万人をピークに減少に転じ、2025年にはおよそ1億2400万人まで縮小するとされています。
昨年から今年(2024年〜2025年)にかけては、約60万人もの人口が減少しました。
つまり、毎年ひとつの中都市が丸ごと消えていくような規模です。
(ちなみに、私の地元・長野市の人口は約35万人。1年で長野市規模の中都市が2つなくなるほどのペースです。)
そんな状況で「広告を打てば一定数の新しいお客様が来る」という構図は、もう現実的ではないですよね。
若年層の消費人口が減っているため、消費の絶対量も下がり続けています。
この流れの中で売上を維持・拡大していくには、一度買って終わりの顧客を増やすより、すでに出会ったお客様に長く選ばれ続ける仕組みをつくること。
つまり、ファンを増やすことが欠かせません。
人口が減る社会では「いかにファンを育てるか」が、企業の生存戦略そのものになります。
ファンづくりはこれからの事業を強くするための現実的な選択なんです。
超成熟化社会
すでに生活に必要なモノやサービスは十分に行き渡り、いまの消費は「足りないから買う」では動かなくなっています。
価格や機能の差も小さく、「どれを選んでも大きくは変わらない」という状況。
つまり「良い商品をつくれば売れる」というシンプルな時代は、もう終わりました。
余談ですが、つい先日、デスクチェアを買おうとしてAmazonで検索したら、ヒットしたのはなんと約6万件。
しかも、価格やこだわっている点に大きな違いを感じられない。
「どれを選べばいいんだ…orz」と悩んだ結果、最終的に信頼しているYouTuberがおすすめしていたチェアを買いました。
もし私の中に、「すでに共感しているブランド」があれば、迷わずそのブランドを指名していたと思います。
こうした購買行動はは多くの人に共通しているはず。
いまの消費者は、単に“安い・便利”ではなく、「自分に合っている」「納得できる」「信頼できる」と感じられるものを選んでいます。
そしてそれを実現するための探索を無意識に行なっています。
実際、株式会社野村総合研究所の調査(生活者1万人アンケート(10回目)にみる日本人の価値観・消費行動の変化)でも、コロナ以降“こだわり志向”が伸び、「プレミアム消費」や「徹底探索消費」が増加。
逆に「安さ重視」や「利便性消費」は減少傾向にあるそうです。
モノが溢れかえる成熟化社会では、機能的な優位性も大前提として重要ですが、「どんな価値観を持つブランドか」「自分に合っているかどうか」が選ばれる理由になっています。
“安ければいい”という時代から、“納得できるものに対して対価を払う”時代へ。
つまり、生活者の多くが「プレミアム消費」へとシフトしているということです。
こうした状況では、単にモノを売るのではなく、「このブランドから買いたい」と思ってもらえる体験価値を提供し、関係性をどう築くかが問われます。
顧客を“一時的な購買者”ではなく、“共感して支えてくれるファン”として関係性を深めていく視点。
それこそが、成熟化した市場でブランドが選ばれ続けるための前提になっています。
情報過多時代の到来
次に情報過多時代について。
総務省のデータによると、インターネット上の情報量は2002年を10とした場合、2020年にはその約6000倍に増えたそうです。
この数字を見ても実感はつかみにくいですが、確かにここ十数年で「情報の受け取り方」は大きく変わりました。
あまりに情報が多すぎて、すべてを追うことが難しくなった。
だから私たちは、自然と“自分に関係のある情報だけを選ぶ”ようになったのです。
SNSや検索エンジンのアルゴリズムもそれを後押ししています。
結果として、タイムラインに流れるのは自分の興味や価値観に近い情報ばかり。
一方で、自分の関心の外にある情報は、ほとんど目に入らなくなっています。
こうした環境では、企業が一方的に発信する広告やニュースリリースは届きにくい。
どれだけコンテンツを丁寧に作り込んでも、関心を持たれなければすぐに埋もれてしまいます。
だからこそ、今の時代に必要なのは“誰が語るか”です。
企業が直接発信するよりも、「あの人が言っていた」「あの人が使っている」という声のほうが信頼されやすい。
つまり、情報が溢れる今だからこそ、ファンやコアファンの存在が企業の最も強い発信力になるのです。

まずは、顧客との関係性を育み、ファンになってもらうため土台づくりを
ファンをつくるためにできることは本当にたくさんあります。
顧客体験の改善、イベント開催、SNSでのコミュニケーション。
どれも大切ですが、ファンベースのマーケティングにおいて成果を分けるのは「何を土台に実行するか」です。
表面的な施策をいくら積み上げても、根っこの部分が欠けていれば、一時的な効果で終わってしまいます。
その土台となるのが、「価値観の明確化」と「価値の設計図づくり」です。
まず、企業として何を大切にし、何を社会に提供していくのかを言語化すること。
これがないと、顧客は共感の軸を持てません。
サイモン・シネックは著書『WHYから始めよ』の中で「人はあなたが何をしているかではなく、なぜそれをしているかに心を動かされる」と述べています。(WHYから始めよ! インスパイア型リーダーはここが違う)
次に、その価値を商品やサービスに落とし込み、ブレのない体験として届けること。
それには価値の設計図となる「強く、戦略的なコンセプト」が欠かせません。
実際、私たちの支援もいきなり広告運用やデザイン制作に入るのではなく、こうしたブランドの基盤づくりからはじめています。
具体的には「ブランドビジョン設計・コンセプト開発」です。
でないと、「選ばれ続ける状態(ステークホルダーから愛される続けるブランド)を、クライアントさんと一緒に作っていくことがどうしても難しいんです。

最後に
企業やブランドは、常に誰かの目に触れ、誰かと出会っています。
「いつか始めよう」では遅く、顧客はその間にも別の選択をしています。
そして、ファンは一日で生まれるものではありません。
だからこそ、今この瞬間からでも、明確な価値観を掲げ、それを日々のコミュニケーションや商品・サービスの提供を通じて体現し続けてほしいと思います。
(経営戦略からコミュニケーションを一本の軸で通し、一貫性を伝える)
それこそが、長期的な視点で信頼を育み、ファンを増やす最も確かな方法です。

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この記事を書いた人

クリエイティブディレクター
萩原 雅貴
これまで100を超えるブランドのWEB・デザイン・クリエイティブディレクションを担当。固有の価値を伝える現場において、ビジョン・コンセプト開発、事業戦略設計、制作クリエイティブディレクション、執筆まで。ものづくりに情熱を注ぐ人や組織と手を組み、情報ではなく情緒でつなぐことを指針に活動。ブランドマネージャー1級


