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地方でも勝てる中小企業マーケティング事例6選と内製外注の判断軸

この記事のまとめ

  • 地方の中小企業でも、独自価値を言語化し、地域資源を活かしたマーケティングで愛され続けるブランドを育てられます。
  • 商店街の空間活用から脱炭素の可視化まで、業種や課題ごとに実在する6つの取り組みが具体的な指針になります。
  • 認知不足、差別化、人材不足など課題別に打ち手を選ぶことで、限られた経営資源を無駄なく使えます。
  • 内製と外注は領域ごとに切り分け、費用相場と支援制度を押さえて判断することがポイントです。

地方中小企業のマーケティングの前提

この章では、事例を見る前の土台として、地方ならではの商圏の捉え方と、独自価値の言語化について整理します。

地域商圏と経営資源の制約

地方の中小企業がマーケティングを考えるとき、まず商圏の範囲と経営資源の制約を把握することが出発点になります。

中小企業庁によると、小規模事業者は中規模企業と比べて、主な商圏範囲を「同一市区町村」「近隣市区町村」と答えた割合が高くなっています。地域に根ざした事業を営んでいる姿がうかがえる結果です(参照*1)。

こうした前提のもとでは、人手も予算も限られる中で、全国区の大手と同じ土俵で戦うのは現実的ではありません。地方の会社にとって、身近な商圏で愛され続ける仕組みを整えることが、マーケティングの土台になります。

一方で、狭い商圏は、顔の見える関係と口コミが効きやすい場でもあります。地域の顧客との距離の近さを活かし、独自価値を尖らせていく発想が大切です。経営資源の制約はハンデではなく、独自価値を磨く出発点として捉えられます。

独自価値の言語化とブランディングの定義

商圏を押さえたら、次は独自価値の言語化です。地方中小企業のマーケティングは、ここから始まります。

本記事では、ブランディングを「企業や商品の愛される理由(独自価値)を基点に、一貫したイメージをステークホルダーと共有し、共感や応援を生むための戦略や活動」と定義します。ブランディングは日々の活動であり、その積み重ねの先に築かれる資産がブランドです。

中小企業庁によると、ブランドの構築・維持に取り組む企業のほうが、取り組んでいない企業と比べて売上総利益率の水準がやや高いという結果が出ています(参照*2)。

また、特許庁は、デザイン経営の効果として次の3つを示しています(参照*3)。

  • 自社らしさの明確化
  • 人材の採用と定着化
  • 新しい仕事の創出

独自価値の言語化とは、頭の中にある想いを、社員や顧客に伝わる言葉に置き換える作業です。つまり、商圏の把握と独自価値の言語化という土台があって初めて、この後に見る個々の施策が積み上がっていきます。

地方でも勝てる中小企業マーケティング事例6選

ここからは、公的機関が紹介している国内の6つの取り組みを見ていきます。商店街の空間活用から脱炭素の可視化まで、いずれも販路の開拓や顧客との接点の広がりにつながった事例です。

事例1: 商店街の空間活用による集客回復(狸小路商店街)

狸小路商店街は、空間活用によって集客を立て直した事例です。

中小企業庁によると、再開発事業の工事の影響で人流がピーク時から半減しました。その後、新たな店舗の出店や流行を捉えた商品販売など「deve★so」と呼ばれる取り組みを重ね、来街者数をピーク時の8割程度まで回復させています(参照*4)。

このように、商圏の環境が悪化しても、空間の使い方と品揃えの見直しで人の流れを取り戻せます。地方の商店街や個店にとって、既存の資産を現代的に編集し直す発想は十分に参考になります。場所そのものを商品と捉える視点が、自店の集客回復にもつながるはずです。

事例2: データマーケティングで愛され続ける地域づくり(気仙沼)

気仙沼の事例は、地域ぐるみで顧客データを活かした取り組みです。

中小企業庁によると、行政や各種団体、民間事業者、住民が一体となって取り組みを進めた結果、会員数は約4万人、加盟店は132店舗、年間利用額は5億円を突破しました(2021年度時点)。コロナ禍においても年間利用額が前年対比107.2%と、安定して伸びています(参照*4)。

このように地域データを共有基盤にすると、単独の店舗では見えない顧客像や消費行動が浮かび上がります。行政や商工会議所と連携し、共通の仕組みに乗る選択肢は地方の中小企業にとって現実的です。一店舗で抱えるより、地域全体の顧客データを味方にするほうが、長く愛される地域を育てる近道になります。

事例3: ブランドコンセプト刷新による海外販路拡大(近畿編針)

近畿編針の事例は、ブランド再構築で海外販路を広げた例です。

中小企業庁によると、新ブランド立ち上げ前と比べて売上げは約1.5倍になりました。同社の担当者は「物は同じでも見せ方を変えれば自信と勇気を持って海外で展開できる。ブランド構築は、人任せにせず、主体性を持って取り組むのが大事」と語っています(参照*2)。

同じ商品でも、コンセプトと見せ方を変えるだけで届く相手が広がります。既存製品の再定義は新商品開発よりリスクが低く、地方の製造業にとって取り組みやすい選択肢です。独自価値の見せ方を変えるだけで、海外という新しい商圏への一歩を踏み出せます。

事例4: デザイン経営によるリブランディング(環境大善)

環境大善の事例は、デザイン経営で採用と販路の両方に変化を生んだ例です。

中小企業庁は、一連の取り組みで企業イメージが刷新され、北見市外からの新規採用につながるなど人材獲得にも寄与したと紹介しています。さらに利益率の向上や海外との取引を含む販路拡大にもつながり、来期の売上げは20%程度伸びる見込みです(参照*2)。

デザイン経営は見た目を整える取り組みではなく、自社らしさを社内外へ一貫して伝える活動です。採用と販路の両方に効くこの発想は、地方の中小企業ほど活かせます。デザインを費用と捉えるのをやめた瞬間、それは人と取引先を育てる投資に変わります。

事例5: SNSとECで全国にファンを育てる(やんばる酒造)

やんばる酒造の事例は、SNSを起点にECへ広げた取り組みです。

中小企業庁によると、池原代表取締役はまずSNSで自社の情報を発信しました。投稿を重ねるうちに閲覧者から「どこで商品を買えるのか」といった問合せが相次ぎ、遠方の消費者に直接販売する手段がないことを実感し、すぐに自社ホームページとECサイトの立ち上げに着手しました(参照*1)。

地方の食品や酒類の会社にとって、SNSは全国のファンと出会う入口になります。まず発信して反応を見てから販路を整える順番が、無理のない拡大につながります。発信をためらっている間に、自社の商品を待っている人が全国にいるかもしれません。

事例6: 脱炭素の可視化を武器にしたブランディング(岩倉溶接工業所)

岩倉溶接工業所の事例は、脱炭素の可視化をブランディングにつなげた例です。

静岡県産業振興財団は、脱炭素への取り組みを数値で裏付けることは、リクルートや新規取引における必須要件だと紹介しています。環境への配慮をエビデンス化することで企業の社会的信頼が高まり、価値で選ばれ続ける企業としてのブランディングを強固にすると説明しています(参照*5)。

脱炭素は大企業だけのテーマではなく、地方の中小製造業にこそ効果が出やすい領域です。数値で語れる会社は、取引先の調達基準にも応募者の会社選びにも刺さります。環境の取り組みを可視化することが、そのままブランドを育てる投資になると気づいた会社から、次の競争優位が生まれます。

つまり、6つの事例に共通するのは、地域や手元の資産を独自価値として磨き直し、それを顧客と社会へ一貫して伝え続けた点です。

課題別に見る打ち手の選び方

事例を自社に引き寄せるために、この章では認知不足、差別化、人材不足という代表的な3つの課題別に打ち手を整理します。

認知不足・販路開拓の課題

認知不足の解決には、調査・商品開発・情報発信を組み合わせて取り組むことが有効です。

中小企業庁によると、小規模事業者の4割が事業活動に「SNSを活用している」と回答しました。SNSの活用状況別に新規顧客数の見通しを見ると、活用していない事業者と比較して、活用している事業者のほうが「増加」と回答した割合が高くなっています(参照*1)。あわせて、効果を感じた取り組みとして次が挙げられています(参照*1)。

  • 今後拡充したい市場・顧客ニーズの情報収集・調査分析(最多)
  • 新しい商品・サービスの開発
  • 情報発信の強化(SNSでの発信など)

このように、認知を広げる手段は広告出稿だけではありません。顧客の声を集める調査、商品の磨き込み、SNSでの継続発信をセットで回していくことが、地方中小企業らしい販路開拓につながります。認知は買うものではなく、地道な発信と対話を重ねることで育てるものです。まず一つの発信から、今日始めてみてください。

差別化・価格維持の課題

差別化と価格維持を実現するには、まずブランドコンセプトを明確にすることが重要です。

中小企業庁によると、取引価格に「大いに寄与している」企業と「ほとんど寄与していない」企業を比べると、自社ブランドの立ち位置の把握やブランドコンセプトの明確化において、回答割合に大きな違いがあることがわかりました(参照*2)。こうした取り組みが、価格維持に影響している可能性をうかがわせる結果です。

値下げ以外の武器を持つために、まず「自社が何屋であるか」を言葉にしてみてください。競合と並べたとき、選ばれ続ける理由がひと言で伝わるかどうかが一つの目安になります。コンセプトが言語化できると、営業資料もウェブサイトも採用ページも一貫してきます。その一貫性こそが、価格に納得してもらえる関係を育てます。価格を守るのは値引き交渉の技術ではなく、コンセプトの明確さです。ぜひ自社の言葉を整理するところから始めてみてください。

人材不足・社内体制の課題

人材不足への対応には、業務の外部化を設計することが有効な打ち手になります。

中小企業庁は、小売業では製造委託や一般事務処理、調査マーケティングなどを外部委託している企業の生産性が高い傾向にあると分析しています。サービス業でも調査マーケティングやデザイン商品企画などを外部委託している企業の生産性が高く、非製造業の労働生産性の向上には、コア事業に注力するための外部化支援も重要ではないかと問題提起しています(参照*6)。

この結果は、すべてを自社で抱え込む発想を見直すきっかけになります。独自価値を磨き、顧客との接点を広げる仕事に時間を集中させ、周辺業務は外部に任せる役割分担が、販路の開拓と利益の向上につながります。まずは任せられる業務を一つ書き出すところから始めてみてください。

つまり、課題別の打ち手はどれも、独自価値に集中するための時間と顧客接点をどう確保するかという一点に集約されます。

内製と外注の判断軸とコスト感

打ち手が決まったら、次はそれをどこまで自社で担うかです。この章では、内製と外注の分け方、費用の目安、パートナー選定の考え方を整理します。

内製が向く領域と外注が向く領域

内製と外注を分けるときは、独自価値との距離を基準にすると判断がぶれにくくなります。コンセプトの言語化や日々の情報発信は自社の独自価値の中心にあるため内製が向きます。一方、デザインや専門的な調査、海外向けの表現などは、外部の専門家の視点を借りることで早く、遠くへ届けやすくなります。つまり、自社の心臓部は内製し、翼にあたる領域は外注するのが基本の分け方です。

この考え方を裏づける事例として、中小企業庁は次のような取り組みを紹介しています。海外展開を実施するも伸び悩んでいた自社ブランドについて、ブランディングデザイナーの支援を受けて時代にあったブランドへの見直しを行い、ブランド力の向上につながりました。同庁は、自社のブランド力を高めるには、ブランドコンセプトの明確化に取り組み、社内外にブランドを浸透・発信し企業文化の醸成を行うことが有効ではないかとまとめています(参照*2)。コンセプトの言語化は内製で担い、デザインや発信の専門技術は外部に委ねる役割分担が、この事例からも読み取れます。

施策別の外注費用の目安

外注を検討するうえでは、施策ごとの費用感をあらかじめ把握しておくことが判断の前提になります。

中小企業基盤整備機構によると、PR会社に依頼する場合の費用の目安は次のとおりです(参照*7)。

  • 基本的なPR戦略の設計やプレスリリース作成:月額10万〜20万円
  • コンテンツマーケティングやオウンドメディアの設計とコンテンツ作成:月額30万〜50万円
  • SNS運用代行やデジタルキャンペーンの企画:月額10万〜50万円
  • 危機管理広報や包括的なPRプランニング:月額50万円以上

これらの金額を高いと感じるか妥当と感じるかは、社内に同等のスキルを持つ人材を採用した場合の年収と比較すると判断しやすくなります。また、単発の制作費よりも月額での並走型契約のほうが、地方中小企業には合う場面が多いです。外注費は人件費との比較で考えると、判断が現実的になります。

パートナー選定と支援制度の活用

パートナーを選ぶ際は、支援制度も含めて選択肢を広げておくことが有効です。

中小機構のミラサポplusによると、海外展開にあたっては自社の商品力・ブランド力が海外のマーケットで通用するかどうかを、客観的な視点から見つめ直す必要があります。その際、「JAPANブランド育成支援等事業」などを通じて、専門家のアドバイスを受けることも一つの方法だと紹介されています(参照*8)。

また、日本政策金融公庫は、ソフトウェア開発業を新たに創業する際、実績や顧客基盤がない段階では、ターゲット市場の特定と専門分野の確立、オンラインプレゼンスの構築、ネットワークの活用など、戦略的なマーケティングが不可欠だとまとめています(参照*9)。

パートナーを選ぶときは、実績の華やかさよりも、自社の独自価値を一緒に言葉にしてくれる姿勢があるかどうかを見極めることが大切です。外注は業者選びではなく、伴走者選びとして向き合うことが望ましいと私は考えます。つまり、内製と外注の判断は、独自価値との距離と、伴走できる相手かどうかの二つで決まります。

失敗を避けるための実行チェックポイント

実行段階でまず取り組むべきは、計画と役割分担を先に固めることです。

中小企業庁によると、経営計画を「策定している」事業者は、「策定していない」事業者と比べて、売上高・営業利益・顧客数のいずれも「増加」と回答した割合が高い結果となっています(参照*1)。マーケティングを単発の施策で終わらせず、経営計画の中に位置づけることが、成果につながる近道です。

また、外部パートナーの起用にあたっては、選定基準を明確にしたうえで複数の候補を比較し、自社のビジョン・目的に合った相手を選ぶことが大切です。基準がないまま価格だけで選ぶと、施策が販路や顧客接点の成果に結びつきにくくなります。

実行前に確認したい観点は次のとおりです。

  • 独自価値がひと言で言えるか、社員に聞いてみて答えが揃うか
  • マーケティング施策が経営計画の数値目標とつながっているか
  • 内製と外注の線引きが、独自価値との距離で説明できるか
  • パートナー候補を複数比較し、自社のビジョンと合う相手を選べているか

失敗の多くは、施策の巧拙よりも計画と役割分担のあいまいさから生まれます。つまり、実行前にこの4つの観点を確認しておくことが、最も確実な失敗の予防策です。上記を一つひとつ確認しながら、実行に踏み出してみてください。

おわりに

地方の中小企業がマーケティングで愛され続けるブランドを育てるとき、その土台になるのは独自価値の言語化と地道な発信の積み重ねです。今回取り上げた6つの事例は、業種も地域もさまざまでしたが、自社の強みを見つめ直し、一貫したイメージを顧客と社員の双方に届けてきた点で共通していました。

内製と外注の判断軸を持ち、費用の目安と支援制度をうまく組み合わせることで、限られた経営資源でも打ち手はきっと広がります。難しく考えすぎず、まずは自社の独自価値を一枚の紙に書き出すところから、最初の一歩を踏み出してみてください。そうして育てた独自価値と顧客とのつながりは、目の前の売上にとどまらず、次の世代へ引き継がれる資産として残っていきます。

参照

この記事を書いた人

マーケティングディレクター

松本 滉平

これまで事業会社で、マーケティング戦略設計からWeb広告、SEO、ナーチャリングなどの戦術面まで、幅広い施策を担当。企業や商材に応じて全体最適を目的としたマーケティング戦略立案、戦術を実施し、マーケティング施策全体の費用対効果を高めるスタンスを重要視している。今後の目標は、自身が素晴らしいと感じた商品やサービスの価値・魅力を最大限に引き出し、多くの人に届ける活動を続けていくこと。ブランドマネージャー1級